「草野球の窓」
第14章
「レム睡眠」

 試合開始時間が早くて、いやだなーと思ったことはないでしょうか。特に大会などでは午前8時頃に試合開始というケースもありますから、集合時間はそれより早く午前7時頃、すると起床時刻は平日よりも早くなり、起床後も体がなんとなく重く感じられるということがあります。
 このように、朝一番の試合は我々の起床時刻、ひいては睡眠時間を左右します。この章ではその「睡眠」について科学し、我々に有益な方策が得られないかを探ってみることにしましょう。

睡眠には二種類ある
 睡眠と一言でいっても、実はその深さによって様々な段階があり、決して一様ではありません。大きく分ければ、レム睡眠と、ノンレム睡眠の二種類があります。

 レム睡眠は、REM睡眠と書き、これは「Rapid Eye Movement」(急速眼球運動)から名づけられたものです。「寝ているはずなのに眼球がキョロキョロ動いている」というのが、レム睡眠の最大の特徴です。
 またレム睡眠時の脳波は起きているときとほとんど同じで、外見的には寝ているのに脳波的には起きているので、当初は「逆説睡眠(パラドックス・スリープ)」とも呼ばれていました。この現象が発見されたのは1950年代です。そして、レム睡眠ではない睡眠をノンレム睡眠と呼んで区別するようになりました。

寝ている間の睡眠深度の変化
 脳は電気的な信号を発しており、それを記録したものが脳波です。睡眠中は脳波が段階的に変化していくことがわかっており、現在では5段階に分類されています。一般的な睡眠深度の変化を示したものが右のグラフです。(実測図ではなく概念図です。)

 眠りについてから、30分から1時間ほどで一日の中で最も深い眠り(青い部分)に到達します。この時の眠りは「徐波睡眠」と呼ばれます。この徐波睡眠時に成長ホルモンの分泌が最も多いことがわかっています。
第9章「筋肉作りと成長ホルモン」
 その後、段階的に眠りは浅くなっていき、一回目のレム睡眠期(赤い部分)となります。外見的には寝ていますが、脳波的には覚醒している状態です。そしてまた眠りが深く浅くを繰り返し、二回目のレム睡眠期となります。以降、この周期が繰り返されることになります。このレム睡眠の周期はおおよそ90分から120分間隔といわれています。

なぜレム睡眠が存在するのか
 睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があることはお分かりいただけたと思いますが、それではなぜ睡眠に二つの種類があるのでしょうか。
 そもそも睡眠とは、一日のうちで生存に関わりのない時間帯に、無駄に行動してエネルギーを消耗しないために、体を不動化することを目的としています。下等な動物、例えば、爬虫類や魚類、昆虫などは、食べ物を探し求めるときには活発に動き回りますが、それ以外では安全な場所でじっとして動きません。この時、彼らは意識を失っているわけではありませんが、外見的にはヒトの睡眠と同じ状態になっています。
 レム睡眠は、これら下等動物の不動化と非常によく似ています。つまりレム睡眠は原始的な睡眠の形なのです。ネズミの睡眠を例に考えると、このことがよく理解できます。
 ネズミは大脳皮質がほとんどできあがっていない状態で生まれてきますが、ネズミの新生仔はレム睡眠だけで、ノンレム睡眠がありません。出生後急速に大脳皮質が成熟していくとともにノンレム睡眠が増えていきます。つまり、簡単にまとめると、レム睡眠はエネルギーを使わないための原始的な睡眠、ノンレム睡眠はそれに加えて発達した大脳を休めるための進化した睡眠ということができます。

目が覚めるのはレム睡眠のとき
 悪い夢を見ていて、ハッとして目が覚めてしまう経験はないでしょうか。夢は多くの場合、大脳がほぼ起きている状態であるレム睡眠期に見ます。大脳が起きているので、そのまま簡単に目が覚めてしまうことになるのです。これを逆手にとり、レム睡眠のときに起きるようにすれば、自然で快適な目覚めが期待できそうです。
 これを実現するには、自分の睡眠パターンを正確に知っておかなければなりませんが、簡易型の脳波測定器でもなければ難しそうです。しかし、レム睡眠の周期が90分〜120分であることを利用すれば、ある程度まで工夫ができそうです。つまり、自然に目が覚めてしまったときの時刻がわかれば、その前後90分〜120分にもレム睡眠期があるということが推測できます。眠りについた時刻もわかっていれば、3回目もしくは4回目のレム睡眠期を狙って目覚まし時計をセットするという工夫ができそうです。もしくはレム睡眠期に起きることを狙って、眠りにつく時刻を調節するという高度な技もありえそうです。

 巷ではいろいろな機能を持った目覚まし時計が市販されていますが、深く眠っている大脳を無理やり叩き起こすのではなく、睡眠に関する知識を応用するだけで、目覚めがよくなる可能性が高くなります。それは同時に、不快な目覚め感を避ける工夫でもあります。早朝に試合が組まれ、早く起きなければならないときのために、普段から自分の睡眠パターンを把握しておくこと、つまり、自分はいつ寝るといつ頃にレム睡眠期になるかを把握しておくことは無駄ではありません。
 ただし、眠る日の疲労度によってある程度睡眠パターンはぶれることがあるようですので、ご留意ください。ちなみに“歯ぎしり”するのもレム睡眠期だと言われています。

レム睡眠に関するトリビア
 通常では、起きている状態からレム睡眠に至るまでに必ずノンレム睡眠期があります。つまり、覚醒→ノンレム→レムの順序で一回目のレム睡眠期に至ります。しかし、ナルコレプシーという睡眠障害をきたしている場合は、起きている状態からいきなりレム睡眠期に移行すること(覚醒→レム)が頻繁に起こります。これは一種の病的な状態ですから治療が必要となりますが、普通の人でも疲労困憊しているときや長時間眠らなかった後などに、いきなりレム睡眠期に移行してしてしまうことがあるようです。いわゆる“金縛り”はこの状態のときに経験するものです。体だけがぐっすりと眠ってしまい、脳がそれについていけず覚醒状態であるために「体の自由がきかない!金縛りだ!!」という事態になるのです。心霊現象とはまったく関係がありません。

<追加>
 2004年10月10日、睡眠の深さを脈拍から判定する世界初の携帯型「睡眠計」を東芝が開発したと報道されました。2006年の東芝レビューにその内容が詳細に報告されています。睡眠判定の正答率は75%だそうです。まだまだ成熟の余地が残されている分野のようにも思えますが、新しい健康グッズとして期待したいと思います。

(初版2004.7.25)
(改訂2004.10.11)
(改訂2008.5.21)



【参考資料】
(1)「標準生理学」第5版, p429,医学書院
(2)「医科生理学展望」p136,1978,丸善(株)
(3)「からだの科学」増刊2,p186,1984,日本評論社
(4)快眠のための睡眠判定と睡眠モニタシステム, 東芝レビューVol.61 No.10(2006)


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