「草野球の窓」
第15章
「花粉症」
花粉飛散の角度から
 春、我々草野球人は「シーズン到来」という最大の幸せを感じます。しかし、同時に花粉症に悩む草野球人にとっては、一年で最大の苦難の季節でもあります。
 現在、花粉症患者は日本の人口の15%といわれています。つまり1チームに1人以上は花粉症患者がいることになります。絶好の野球日和に気持ちよく草野球に興じるはずが、花粉症の症状で集中できなかった....などという話を耳にすることもあります。ここでは決して他人事ではない花粉症を、花粉飛散の角度から取り上げます。

花粉症を引き起こす樹木
 花粉症はアレルギー反応の一種ですが、その原因物質としてはスギ花粉ヒノキ花粉シラカバ花粉が知られています。そのうち最も影響が大きいとされる“スギ”(学名:Cryptomeria Japonica)という樹がどういう樹なのか、知っておきましょう。

 日本でのスギの分布は青森県から鹿児島県屋久島まで広く“天然に”分布しています。歴史的には、万葉集に
 「古の人の植けむスギが枝に霞たなびく春は来ぬらし
と歌われていますから、1000年以上前からスギの植林が行われていたと思われます。江戸時代以降は都市近郊に大規模な植林地帯ができました。これは産業の発展に伴い、木材としてのスギの需要が高まったことが要因です。
 木材としてのスギの特徴は、(1)環境に対する適応力が高い、(2)他の樹木に比べ成長が早い、(3)樹木がまっすぐで、しかも割裂性が高いため、加工がしやすい、ということが挙げられます。しかし、残念ながら(?) 野球用バットしての適性は低いようです。

 スギの植林面積は450万haに達します。国土面積が3,779万haですから、国土の12%が植林スギです。ちなみにヒノキの植林面積は257万haで国土面積の7%です。これを考えると春の日本国土はまさに“花粉だらけ”と言えそうです。

 現在の都道府県別の植林面積のデータがありますので、スギとヒノキについてベスト10を表にしてみました。

(ha)スギ面積ヒノキ面積
秋田 3658 高知 2173
宮崎 2456 岐阜 2092
岩手 2046 静岡 1434
青森 1985 岡山 1303
福島 1862 和歌山 1196
鹿児島 1595 愛媛 1235
山形 1579 三重 1099
熊本 1575 広島 1089
高知 1565 熊本 1085
10 大分 1541 鹿児島 1042

スギ花粉の飛散について
 スギ林からの花粉(右写真)の飛散は早いところでは2月上旬から始まり、遅いところで5月の中旬までに終わります。つまりこの3ヶ月間が花粉症のメイン期間ということになります。
 ただし、メイン期間以降の6月から9月までの期間でも空中に花粉が観測されることがあります。その理由には以下の二つがあります。

(1)春にスギ林から飛散し、都市部で一度地面に落下した花粉が再度空中に舞い上がったため。この現象は農村部には見られず、アスファルトに覆われている都市部だけで見られる現象です。
(2)春以降も落下せずに木に残っていた雄花が夏に花粉を飛散させるため。通常は非常に少ないので問題にはなりませんが、花粉の大飛散年には相当数の雄花が残っているらしく、スギ林付近では注意が必要となります。

スギの品種の違い
 スギ花粉を作るのは雄花(左写真)ですが、15年生以下の植林スギの雄花は極めて少なく、その後スギが成長するに伴って雄花は徐々に増加します。そして30年生頃から急増し、50年生頃に最大に達します。その後は雄花の量は高いレベルで維持されます。

 スギの植林は植える苗に二つの種類があります。種子から生やした“実生苗”と、スギの枝を地面に挿して育てる“挿し木苗”です。実生苗は成長が早く、積雪などの環境変化にも強いため、ほとんどの地域で植林されています。挿し木苗は成長が遅く、環境変化にも強くありませんが、木材としての品質がよいため、本州の一部と九州地方で植林されています。
 一般に挿し木苗は実生苗に比べて雄花の量が少なく、そのため九州地方では植林面積が比較的高いにもかかわらず、花粉の飛散量が少ないことが知られています。

スギ雄花の量を左右する要因
 スギの雄花の量は、7月の平均気温、または日射量と強い相関があることがわかっています。つまり7月の気温が30℃を超えると雄花の生産量は著しく多くなり、花粉も大飛散することになります。しかし、スギにとって、花粉を生産することは多くのエネルギーを必要とするため、花粉を大量生産した次の年は、たとえ気象条件がよくても雄花の量が少なく、花粉の飛散量が少なくなります。
 ご承知のとおり、2004年夏は記録的な猛暑でした。よってすでに年末には2005年春の花粉大飛散予測が発表されています。しかし、上記の知見を元にすると、2006年春の花粉飛散量は少ないということが予想されます。(追加:予想は当たり、2006年春の飛散量は減少しました。)

今後の花粉対策は
 花粉症は一旦発症すると完治することは困難だといわれています。現在個人レベルで行われている花粉症対策は、症状をなるべく緩和することと、花粉との接触を減らすことの二つに限られていますが、悲しいかな完全な方法はいまだありません。

 しかし、植林という観点で長期的な対策としては、スギの植林は雄花の量が少ない挿し木苗を中心にすることが挙げられます。
 また、そもそも最も花粉を生産する50年生スギが、価格の安さから輸入木材に押され、伐採されずに放置されているということも飛散花粉量増加の一因として挙げられていますから、国内スギ材の利用促進も対策の一つとして挙げられるでしょう。

 2005年1月、独立行政法人材木育種センターが遺伝的にまったく花粉をつくらない“無花粉スギ”の開発を発表しました。すでに材木としての特性も明らかになっており、全国に供給できる体制が整っているようです。ただ無花粉では樹木の育種ができませんから、センターではさらに“アレルゲン性の少ないスギ品種”の開発を今年度中に発表できるとしています。
 残念ながら、我々の世代ではその恩恵を授かることはできませんが、次々世代ぐらいの草野球人は、素直に春を喜ぶことができるようになるかもしれません。

(初版2005.2.1)(追加2006.6.24)


【参考資料】
(1)「スギ雄花の花粉飛散特性」平 英彰,吉井エリ,寺西秀豊, アレルギー,53(12),p1187-(2004)
(2)「スギ林における花粉生産量の推定法」横山,金指, 森林総合研究所,平成9年度研究成果選集
(3)「無花粉スギを新たに開発」(プレリリース), 独立行政法人材木育種センター, 平成17年1月25日


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