「草野球の窓」
第17章
「天然ゴム」
 数ある野球用品の中で最も欠かせないもの、それが軟式ボールです。1918年に京都で“ゴムマリ”が発明されてから今日までに、意匠は幾度かの変遷を経つつも、その素材は今も変わらず“天然ゴム”です。
 2005年の軟式ボールの意匠改訂を機に、多くの人がボールについて関心を持って接するようになりました。草野球フォーラムなどでも語られることが多く、草野球と軟式ボールは同体であることを改めて認識させられます。
 しかし、軟式ボールの原料である天然ゴムそのものについて、我々は深く知ってはいません。この章では天然ゴムについての理解を深めたいと思います。

天然ゴムの歴史
 天然ゴムが人類史上初めて利用されたのは、6世紀のアステカ文明だと言われています。15世紀にコロンブスがアメリカ大陸に到達した後、西欧社会に持ち込まれましたが、利用価値はあまり高くなく、むしろ希少品として扱われたようです1)
 天然ゴムの歴史に大きな変革が訪れたのは1839年のことです。アメリカ人チャールズ・グッドイヤーが、生ゴムに硫黄を混ぜて加熱すると弾性が飛躍的に向上することを発見しました。この他にも電気絶縁性や耐久性などの特徴を有することがわかり、ゴムの利用価値は格段に広がりました。その結果、19世紀から20世紀初めにかけて供給不足に陥り、価格が大暴騰しました。当時、ゴムは南米アマゾン川流域でしか採取できなかったのです。
 そこで世界中に植民地を持っていた英国は、1876年、ゴムの苗木をセイロン島に移植し、ここを拠点として東南アジア各地にゴム農園を作りました。現在東南アジアがゴムの一大産地である背景はここにあります。そして英国は大東亜戦争で日本軍に敗退するまで世界の天然ゴム市場を独占していました。現在の天然ゴムの生産はアジアだけで約9割に及びますが、ゴムの情報収集を行なう国際機関・国際ゴム研究会(IRSG)の本部がロンドンにあるのは2)、その歴史が大きく係わっているものと思われます。

天然ゴムの生産
 天然ゴムの生産はほぼアジアに集中していますが、さらに国別にみると、左図に示すように、タイ・インドネシア・マレーシアの3カ国で70%を占めます。

 ゴムの木は白樺に似ていて、樹皮を傷つけると白い樹液を出します。この樹液を集めてアンモニアを添加し、保存安定性を高めたのがラテックスです。このラテックスに酸を加えて凝固させた後、シート状に加工したものをシートゴム(RSS)、粉砕し加熱乾燥したものをブロックゴム(TSR)と呼びます。これは国によって生産量が異なり、タイは半分以上がシートゴムですが、インドネシア・マレーシアではほとんどがブロックゴムです。これらのゴム原料には品質の格付けがありますが、シートゴムは“見た目”で、ブロックゴムは“化学分析値”で行われるため、ブロックゴムの方が品質にバラつきが少なく、近年では徐々にブロックゴムにシフトしてきているようです。軟式ボールの原料はシートゴムを用いています。


天然ゴムの消費量
 世界の天然ゴムの消費量は年々増加し続けており、1984年から2004年で約2倍になりました。近年著しいのは中国の消費増大で、2001年にアメリカを抜いて世界最大の消費国となりました3)。現在では、中国・アメリカ・日本・マレーシア・韓国が上位5カ国です。
 中国の消費が増えている背景には、自動車生産の増加があります。自動車用タイヤの原料としての需要があるからです。自動車用タイヤは合成ゴムと天然ゴムを半々に混ぜるため、天然ゴムの消費が伸びるわけです。
 右の図は、日本が輸入した天然ゴムが何の製品材料になっているかを示したものです。圧倒的にタイヤで占められている(82%)ことがわかります。軟式ボールへの用途は図中の最下位にある運動用品に含まれますが、わずか0.2%以下 に過ぎません4)
天然ゴム価格の暴騰
 中国の自動車生産台数は、1990年には50万台でしたが、2000年には200万台に達し、2001年12月のWTO加盟を機に爆発的な伸びをみせ、2003年に444万台となりフランスを抜いて世界第4位となりました。翌年には500万台を突破、2005年は世界第3位のドイツ(576万台)に迫る571万台となっています5)。(ちなみに1位はアメリカ1,195万台、2位は日本 1,080万台です。)

 この急激な自動車の生産拡大とともにタイヤ需要も拡大し、天然ゴムの価格は上昇し始めました。右図は世界のゴム価格の指標となる東京工業品取引所の先物価格(kgあたり)の過去10年間の推移です。(1996.1〜2006.5) 中国の自動車生産が急増する2002年から上昇が始まり、2005年から1年で2倍に高騰していることがわかります。
 同時に原油価格の高騰も重なり、合成ゴムの価格も上昇したことから、2005年から翌年にかけて国内大手タイヤメーカーはついにタイヤの値上げに踏み切りました5,6,7)。どのメーカーも値上げの主な理由として、一番に天然ゴムの高騰を挙げています。

 現在のゴム相場価格はこちらで →【東京工業品取引所

 昭和ゴム(株)が2006年6月30日をもって、軟式ボール(SGボール)の生産を終了し、同事業から撤退しました。その広報文書には "チーム数減少による経営環境の悪化" が理由として挙げられていただけでした8)が、そのもう一つの背景には、"原材料高騰による採算性の悪化" も間違いなくあったはずです。

(2006.7.5)


【参考資料】
(1)ゴムの基礎知識(PDF), 株式会社フィスココモディティー
(2) International Rubber Study Group, Quarterly Statistics
(3) 中国情報局, 2005.12.14
(4)トヨタの概況2006(PDF)
(5)ニュースリリース, ブリヂストン株式会社, 2005.11.17
(6)ニュースリリース, ダンロップファルケンタイヤ株式会社, 2006/1
(7)ニュースリリース, 横浜ゴム株式会社, 2005.7.5
(8)リリース(PDF), 昭和ゴム株式会社, 平成18年5月26日


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