「草野球の窓」
第18章
「健康情報番組」
 巷ではよく“健康ブーム”と言われます。健康であるということは誰もが当たり前に願うことですから、それがブームになるという現状はいささか異常であると言えましょう。本来、健康という言葉は、明治時代に“health”の訳語として作られた言葉で、単純に体に異常がない状態を指します。異常がないことがブームになるということの方がむしろ異常です。
 ブームであるかどうかを抜きにすれば、健康に興味を抱くことは結構なことです。しかし、その興味に対して正しい情報が提供されなければ、時として健康とは逆の結果を生むこともあります。平成18年5月に発生した「白インゲン豆ダイエット法」による食中毒などはその実例です。これはテレビ番組で放送された誤った情報が原因でした。

健康情報番組のバラエティ化
 健康情報を扱うテレビ番組は多く見かけられます。そのテーマは「食」や「睡眠」や「運動」であったりしますが、番組の中身は、クイズ形式をとったり、タレントがコメンテーターを務めていたりすることから、“教養番組”というよりは“娯楽番組”としての性格の方が強いように思われます。上記の白インゲン豆食中毒の原因は、TBS「ぴーかんバディ」という番組でした1)。人気アナウンサーに人気モデルというキャストで、TBSの番組紹介でもバラエティに分類されていたことから、制作側も娯楽番組として位置づけていることがうかがえます。

 さて、これら娯楽番組から発信される健康情報の信憑性はどの程度あるのでしょうか。食中毒を誘発してしまった実例がある以上、100%信頼できるものではなさそうです。テレビの健康情報番組のうち、特に「食」に関する情報について、視聴者に与える影響や内容の信憑性に関する、群馬大学教育学部・高橋久仁子教授の調査報告(H15〜18年)がありますので、その一部を紹介いたします。

健康情報番組に関するアンケート結果
 平成16年、日本栄養・食糧学会において発表された内容は、群馬県内の成人689人に対して行なったアンケート調査結果でした2)。回答者の94%は女性でした。この女性の回答を
 A.NHK「ためしてガッテン」と日本テレビ「おもいっきりテレビ」の両方を見る
 B.上の番組のどちらかを見るか、その他の健康番組を見る
 C.特に見ない
 の3つの群に分けます。まず、「食品の健康効果に関する興味」について、「大いにある」と答えた割合はA.67%,B.43%,C.14%でした。「○○は体によいと聞いて、効果を期待し食品を購入したことがある」のは、A.89%,B.78%,C.53%でした。さらに具体的な例として、「卵黄レシチンはボケを予防する」と信じていたのは、A.29%,B.10%,C.10%でした。なお、卵黄中のレシチンがボケを防止するという科学的証明はなされていません。
 アンケートの結果、NHK「ためしてガッテン」と日本テレビ「おもいっきりテレビ」の両方を見ると答えた人は、「体によい」と聞いた食品を次々と試す傾向がある、と報告されています。

番組が提供する情報の信憑性
 平成18年、日本栄養・食糧学会において発表された内容は、番組が紹介した情報と情報源として使用した学術論文との比較でした3)。番組は、NHK「ためしてガッテン」、日本テレビ「おもいっきりテレビ」、フジテレビ「発掘!あるある大辞典」の3番組です。その結果、次の3点が確認されました。

(1)ある食品を大量に摂取して得られた結果を、少量の摂取で効果があるかのようにいう。

例:論文「糖尿病患者に大量のシナモンを食後に40日間飲ませたら、血糖値が18〜29%、中性脂肪が23〜30%低下した」
      ↓
  番組「食事に少量のシナモンを加えると糖尿病患者の血糖値や血中脂肪を18%下げた」

(2)論文に記述がないにもかかわらず、書いてあったかのようにいう。

例:論文「アルコールを適度に飲む人は、アルコール摂取量5g/日未満の人より糖尿病発症率が低かった」
      ↓
  番組「アルコールを毎日適度に飲む人は、まったく飲まない人より糖尿病発症率が低かった」

(3)対照群で得られた改善効果に言及せず、実験群の効果のみを力説する。

例:番組「寒天が肥満解消には効果絶大である」
 (→実験では寒天以外にも効果があったが、寒天の部分だけを抜き出して使用した、ということを指す。)

 以上のことから、テレビの健康情報番組が提供する情報は、論文の一部分だけを強調したり、内容を改変するケースがあると高橋教授は結論づけています。


 近年のテレビ番組においては、捏造(いわゆるヤラセを含む)4)・印象操作5)・データミス(意図的なものを含む)6)などの指摘例が多くあります。残念ながら、健康情報番組も100%信用できる情報を提供しているわけではなさそうです。しかし幸いにも、健康情報番組で取り上げられる情報は、ほとんどがネットでも詳細に調べることができます。特に食品に関する誤った情報は健康被害を実際に引き起こすこともあり得ますから、テレビで得られる情報は、知識を得るためのキッカケとして割り切って利用した方が無難かと思われます。決して「テレビが言ってたから正しい」とは言い切れないのです。


【追加】2007.1.21
 2007年1月7日、フジテレビ系列「発掘!あるある大辞典2」で納豆のダイエット効果が紹介されました。翌日から納豆が品切れになる状況となりましたが、1月20日にこの番組で紹介された実験データが捏造であったことが発覚、翌日にはお詫び放送が放映されるという事態となりました7)

 この番組は関西テレビと制作会社「日本テレワーク」の共同制作ですが、その捏造の中身は、

(1) 納豆で中性脂肪値が正常になったと紹介していたが、そんな測定はしていなかった
(2) 納豆を朝に2パック食べた時と朝夕に分けて食べた時の血液比較データが捏造だった
(3) アメリカの大学教授の取材映像で、言ってもいない日本語訳テロップを付けていた。
(4) ダイエット効果があったことを示す比較写真は納豆とは関係がなかった
(5) 紹介したアメリカの大学教授のダイエット研究は、別の教授の研究だった

 このように番組中捏造だらけでした。もはや情報番組と呼べる内容ではありません。しかもこの放映のタイトルは「食べてヤセる!!!食材Xの新事実」でした。捏造の数々を堂々とタイトルで「事実」だと言い切っていたわけです。当然、番組は打ち切りとなりました。

(初版2006.9.3)
(改訂2007.1.21)
(改訂2008.5.24)



【参考資料】
(1)2006.8.12放送終了。「人間!これでいいのだ」という科学情報番組に変更されたが、ここでも論文無断使用問題やらせ疑惑が浮上し、2007.2.24放送打ち切りとなった。
(2)テレビの「健康情報番組」の視聴と食品の利用行動, 高橋久仁子,深町亜矢子, 平成16年 第58回日本栄養・食糧学会講演要旨集
(3)TVの「健康情報娯楽番組」が話題とする食情報の問題点, 高橋久仁子, 平成18年 第60回日本栄養・食糧学会講演要旨集
(4)やらせ, ウィキペディア
(5)TBS“偏向映像”放映…今度は安倍を狙い撃ち, ZAKZAK 2006/07/26
(6)「朝まで生テレビ!」データ数値と角度の怪!
(7)関西テレビ「あるある大事典II」で捏造発覚,Wiki News


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