「草野球の窓」
第19章
「球速の決定要因」
 どうすれば速い球が投げられますか?.....これは草野球フォーラムで繰り返し投稿される質問です。野球に興じる上で、速球が投げられるということは、投手に限らず、捕手、内野手、外野手すべてのポジションに共通する大きなメリットです。それだけに我々野球人から、速球についての関心が薄れることはありません。

 では具体的にどのようにすればいいのでしょうか。誰もがその回答としてすぐにイメージできるのは筋力アップです。投球に必要な筋力がつけば速球が投げられるのではないかと第一に考えます。しかし、プロで活躍中の速球派投手とプロレスラーを比較すると、筋力は明らかにプロレスラーの方がありそうなのに、プロレスラーが140km/h台の速球を投げられるわけではありません。
 では筋力は特に必要ないのでしょうか。投球は多関節動作なので、筋肉の使い方、あるいは筋肉の連携がスムーズになされているかどうかが重要だという説もあります。
 確かに、筋肉の使い方や筋力が球速に影響するであろうことは理解できます。しかし、だからこそ「じゃあ、何から始めればいいの?」と、結局最初の問い掛けに戻ってしまうというのが我々の実情ではないでしょうか。
 ここでは球速アップ実現の方法を具体的に述べることはできませんが、参考となり得る研究報告を紹介することでその一助にしたいと思います。

何が球速に影響するのか、という研究
 球速がどのような要因によって決定されているかを科学的に調べた研究は、豊富にあるわけではありません。
 1982年にプロ野球選手の上腕を対象に調べた研究があり、ここでは肘と手首の伸展力が球速と相関していることを報告しています1)。肘の伸展力は理解しやすいにしても、手首でも伸展力が相関しているというのが意外な結果です。
 1989年には同様にプロ野球選手の上腕を対象として、肩の内転筋トルクが球速と相関していることが報告されました2)
 また、下腿においても、大学野球選手を対象とした研究で、大腿筋量・膝関節の伸展力が球速と相関していることが報告されています3)
 これらの研究報告は、投球動作に習熟した選手を対象としたものでしたが、習熟度別に考察した報告もあります。(1) 大学野球選手、(2) 定期的に野球練習を行なった経験がない一般成人、(3) 12〜18歳の成長期の野球選手、の3つに対象を区切り、筋肉の量、筋力、動作パワーのどれが最も球速に寄与しているかを調べた研究です4)。以下、この研究内容についてご紹介します。ここでは草野球人は、(2) 定期的に野球練習を行なった経験がない一般成人に分類されるものとし、(2) を草野球選手と言い換えることにします。

大学野球選手と草野球選手の違い
 筋肉量は、計測値から推定式を用いて除脂肪体重・四肢の筋量を算出したもの。筋力は、肘関節および膝関節の伸展・屈曲トルクです。動作パワーとは、メディシンボールを用いて、後方投げおよびチェストパスの投距離など、動作が生み出した“結果”を計測したものです。
 筋肉量、筋力、動作パワーのうち、大学野球選手ではすべてが球速と相関していました。これに対し、草野球選手では、筋肉量、筋力は球速と相関せず、動作パワーだけが相関していました。大学野球選手と草野球選手では球速を決定する要因が違うということになります。言い換えれば、球速の決定要因は投球動作に習熟しているかどうかで異なるということです。投球動作に習熟していなければ、筋肉量や筋力の増大では球速アップは期待できませんから、“習熟する”ということが最も効果的ということになります。

成長期の野球選手の場合
 12〜18歳の成長期の野球選手では、身長・体重が球速と相関していました。また、大学野球選手と同様に、筋肉量、筋力、動作パワーのすべてが球速と相関しており、筋力では特に肘関節の伸展力が相関していました。上腕三頭筋の筋力が球速の決定要因であるという結果です。
 草野球選手だと球速と筋力は相関しないのに、成長期だと大学野球選手と同様、筋力が相関する。では習熟していないのは草野球選手だけなのか?という疑問が湧きます。しかし、これには理由があり、報告者は、いわゆる“手投げ”が多かったためだろうと推測しています。下半身が使い切れていないために、上腕の筋力が球速を決定してしまうという考察です。

とりあえず言えそうなこと
 ここで紹介した知見は、様々な指標と球速との関連性を“示唆”するもので、例えば、「動作パワーを向上させると球速がアップする」ということを“証明”したものではありません。証明するためには複数の特定選手を計測し続ける必要があり、それは今後の研究に期待されるところです。
 しかし、草野球界にとっては、筋力アップは必ずしも球速アップにつながるわけではなさそうだ、という貴重な知見が含まれています。相当量の練習をこなしてきた選手でない場合、下腿も含めた全身の筋肉がうまく連携し、得られたパワーを効率良くボールに伝達できるような投げ方を習得するということ。これが我々が球速アップを実現する方法です。

(初版2007.5.2)



【引用文献】
(1)The relationship of upper extremity strength to throwing speed, Pedegana LR et.al, Am J Sports Med.,Nov-Dec;10(6):352,1982
(2)Measurement of upper extremity torque production and its relationship to throwing speed in the competitive athlete, Bartlett LR et.al, Am J Sports Med.,Jan-Feb;17(1):89,1989
(3)投球速度と筋力および筋量の関係,勝亦陽一ら,スポーツ科学研究, 3, 1-7, 2006
(4)野球選手における筋形態および筋機能からみた投球速度の決定要因,勝亦陽一,早稲田大学スポーツ科学研究科, 2006年度


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