「草野球の窓」
第20章
「 石 灰 」
 石灰というとまず思い浮かべるのが、グランドに引くラインです。ファールライン・スリーフットライン・バッターズボックス・キャッチャースボックス・コーチャースボックス・ネクストバッターズサークル等々。2007年度からは野球規則6.09bを適用するための7.94mサークルを目にすることにもなりました1)。これらのラインがあるのとないのとでは野球に臨む際の臨場感がまるで違います。
 石灰で引かれたラインは学校のグランドでもよく見かけますし、我々にとって非常に身近なツールのひとつです。今回はこの石灰についての見識を深めたいと思います。

石灰の正体とは何か
 石灰の原料は、鉱物資源である石灰岩(石灰石)です。サンゴや貝類、石灰藻などの海生生物の殻が堆積してできたもので、その主成分は炭酸カルシウム(CaCO3)です。日本では石灰岩を白亜とも呼びますが、その白亜でできた地層の年代を白亜紀(およそ 1億4000万年前から 6500万年前)と呼びます。恐竜が全盛期を迎え、そして絶滅した時代、石灰のルーツはそこにあります。地層の一つを成してはいますが、地下の奥深くにしかないというものではなく、地表に露出している場所も多くあります。イギリス・ドーバー海峡ではチョークと呼ばれる石灰岩の崖(右写真)が有名ですし、日本でもカルストや鍾乳洞などがありますが、それらは石灰岩で構成されています。また、ヒマラヤ・エベレスト山頂や、アルプス・アイガー山頂も石灰岩でできています。

 日本は資源小国と言われますが、石灰岩は100%自給可能で、平成14年の統計では国内に石灰岩の鉱山数は285ヵ所、年間生産量は1億6800万トンです2)。その約半分はセメントの原料となります。ちなみに日本の鉄鉱石の輸入量は平成16年で1億3500万トンですから3)、石灰岩の需要は鉄鉱石を上回っています。

石灰の種類
 一言で石灰と言っても、その種類と用途は様々です。天然に産出される石灰岩を加工して、生石灰・消石灰・重質炭酸カルシウム・軽質炭酸カルシウムが得られます。また結晶質の石灰岩は特に大理石と呼ばれます。それぞれの石灰を野球との関わりを含めて解説します4-5)

生石灰 消石灰 炭酸カルシウム 大理石


(1) 生石灰
 主成分は酸化カルシウム CaO。白色の塊状または粉末状。石灰岩を水洗・篩い分けした後、焼成炉の中で900℃〜1,000℃の高温で焼いて作られます。水と非常に反応しやすいため、その性質を利用して除湿剤に使われています。

(2) 消石灰
 主成分は水酸化カルシウム Ca(OH)2。白色の粉末状。生石灰に水を反応させて作られます。一般的にライン引きに使われていたのはこの消石灰でした。しかし、その特性には問題もありました。強いアルカリ性であることや、水と反応して発熱するという安全上の問題、また長期間保管するとラインマーカーの中で吸湿して固まってしまうという取り扱い上の問題点もありました。ホイール式(回転式)ピッチングマシンのホイール表面を溶かす原因となるため、石灰と同じ場所には保管しないようとメーカーが注意を促している例もあります6)。実は石灰はそれほど厄介者なのでした。このため、90年代から徐々に使われなくなっています。
 野球グラブとも縁があります。哺乳動物の皮をなめす前に、皮として使用する真皮層以外の部分を除去する必要がありますが、消石灰はこの工程で使われます。

(3) 炭酸カルシウム
 消石灰を水に懸濁させ、それに二酸化炭素を反応させたものが軽質炭酸カルシウム CaCO3です。軽質炭酸カルシウムは微細な粉末で、ゴム充填剤(主に増量の目的や圧延性、押出性などの加工性を改善する目的で使用される)に用いられます。もちろん軟式ボールの製造過程でも使用されています7)。石灰石を単に粉砕したものは重質炭酸カルシウム CaCO3と呼ばれますが、性質はほとんど軽質炭酸カルシウムと同じです。
 90年代から徐々に使われなくなった消石灰に替わってライン引きに使われ出したのが、この炭酸カルシウムです。同時に白一色だったラインに数種類のカラーが選べるようになりました8)

〔追加〕
 2007年11月、日本眼科医会の調査で、過去2年間、学校現場で消石灰が子供の目に入る事故が計51件発生していることがわかりました。これを受け、文部科学省は消石灰から炭酸カルシウムへの交換を促す通知を出しました9)

(4) 大理石
 白色の結晶質石灰岩を大理石と呼びます。この名称は、中国雲南省の大理県で産出することにちなんでいます。日本ではビルの内装等の装飾に使われているのを目にしますが、この大理石もまた草野球と無縁ではありません。軟式ボールは規格で反発が規定されていますが、この反発とは150cmの高さから大理石板に落として測ることになっています〔野球規則1.09〕。


石灰と似ているが違うもの
 見た目には石灰と似ていますが、成分が違うものがあります。ライン引きに炭酸カルシウムが使われるようになったことは述べましたが、他にも 石膏(せっこう)がラインに用いられることがあります。石膏の主成分は硫酸カルシウム CaSO4 です。

 またすべり止めに用いられるロージンも見た目には石灰とよく似ていますが、ロージンの主成分は炭酸マグネシウム MgCO3 で、石灰ではありません。ロージンそのものは松ヤニを意味しますが、すべり止めとしてのロージンは、炭酸マグネシウム 80%・ロージン 15 %・石油樹脂5%で構成されています。

(初版2007.5.24)



【参考資料】
(1)2007年度野球規則改正情報,草窓情報メール 07.03.04配信
(2)鉱物資源 資料編,資源エネルギー庁
(3)鉄鉱石(鉄鋼)の需給動向とその背景〔PDF〕,外務省
(4)日本石灰協会・日本石灰工業組合
(5)秩父石灰工業(株)〔写真引用〕
(6)スポーツ品事故の豆知識,MIZUNO
(7)健康ボールができるまで〔冊子〕,ナガセケンコー(株)
(8)カラーラインパウダー、トーエイライト(株)
(9)ライン引きに使う消石灰「失明の危険」に注意喚起,J-CASTニュース


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