「草野球の窓」
第22章
「意匠権」
 前章では知的財産権の中の特許権について取り上げましたが、本章では同じく知的財産権の一つ、意匠権について見識を深めたいと思います1,2)。特許権と同様に我々草野球人に大きく関わるものだからです。それを強く認識させるきっかけとなったのは、2006年から変更となった全軟連公認軟式球の意匠変更でした。以前、草野球フォーラムで軟式ボールの意匠権について触れたことがありましたが3)、掲載した意匠登録番号にズレがあるものがありましたので、本章ではその訂正も含め、軟式ボールという実例を挙げて、意匠権について記述してまいります。

意匠権の概要
 意匠権とは、物品の形状・模様・色彩のデザインについての権利で、意匠法に基づいて発生する権利です。特許権が排他的独占権であるのと同様に、意匠権も一定期間その意匠の独占的な使用を保障します。
 同じ知的財産権の一つに著作権がありますが、この著作権との性質上の大きな違いは、工業上利用できるかどうかにあります。工業上の利用性があるかどうかは、つまり量産可能かどうかということにつながります。特許権においても「産業上利用できること」が条件として挙げられていましたが、意匠権もほぼ同じことが求められるわけです。このことから特許権や意匠権は、実用新案権、商標権と併せて、工業所有権と総称されます。(近年、行政では産業財産権という呼称に切り替えています。)
 その他手続き上、著作権は著作物の完成と同時に自然発生しますが、意匠権は必要書類を揃えて出願する必要があります。出願費用は一件につき16,000円です。

 意匠権の権利期間はこれまで登録日から15年間でしたが、2007年4月から20年間となりました。所轄官庁は特許権と同様、特許庁です。特許権の場合は、出願してから3年以内に審査請求する必要がありましたが、意匠権については、出願したものすべてが審査されるので審査請求は不要です。また、特許の権利期間は出願日から数えられるのに対し、意匠権の権利期間は登録日から数えられます。

軟式ボールの意匠登録第一号
 我が国での意匠権の保護に関する法令は、明治21年(1888年)の意匠条例に始まります。意匠法として現行の法律に全面改正されたのは、昭和34年(1959年)です。特許法と同時に改正されています。

 それでは、具体的に軟式ボールを意匠権の視点から見てみましょう。軟式ボールの意匠登録で最も古いと思われるものは、昭和24年に出願されています。現行の意匠法以前にすでに意匠登録されていました。左に示したのものはその公報です。(クリックで拡大します。)

  登録番号:第92482号
   登録日:昭和25年3月15日
   出願日:昭和24年12月5日
  意匠権者:長瀬ゴム工業株式会社

 長瀬ゴム工業は、現在のナガセケンコーです。考案者として記載されている長瀬泰吉氏は長瀬ゴム工業の社長(ナガセケンコー創業者)で、1938年、多種多様であった軟式ボールの意匠を統一した菊型健康ボールの考案者でもあります4)。戦後すぐに発足した全日本軟式野球連盟は、昭和25年にこの意匠登録第92482号を菊型健康ボールに変わる新しい軟式ボールの意匠として制定しました。


新公認球の意匠登録
 次に現在の軟式ボールの意匠を見てみます。下の画像はおなじみの軟式ボールです。左はもはや歴史となってしまった2005年までの旧全軟連公認球、右は2006年から採用の新公認球です。両者の意匠上の最も異なる点は、旧球のディンプル部分です。新球ではディンプルがなくなり、小さな凹点で形成された三角形の組み合わせになっています。

旧公認球 新公認球

 この新公認球の意匠は、下のように意匠登録されています。

第1168980号
(平成15年登録)

   登録番号:第1168980号
    登録日:平成15年2月7日
    出願日:平成14年5月15日
   意匠権者:ナガセケンコー株式会社

 左は意匠番号第1168980号に登録されているボール意匠の正面からの画像です。一目見てわかるように、ほぼ新公認球と同じです。つまりこれが新球の意匠権ということになります。登録日が平成15年ですから、この意匠権の権利期間は平成35年(2023年)までです。ちなみに旧公認球の意匠権者もナガセケンコーでした。


他の軟式ボールの意匠登録
 軟式ボールの意匠は、他にもいろいろ出願され登録されています。それらを比較的新しいものを中心に各メーカーごとに見てみましょう。

<ナガセケンコー編>

第1145264号
(平成14年登録)
第1145263号
(平成14年登録)
第1078059号
(平成12年登録)
第1075476号
(平成12年登録)

■意匠登録第1145264号
 登録日:平成14年5月10日  出願日:平成13年3月9日   意匠権者:ナガセケンコー株式会社
■意匠登録第1145263号
 登録日:平成14年5月10日  出願日:平成13年3月9日   意匠権者:ナガセケンコー株式会社
■意匠登録第1078059号
 登録日:平成12年4月28日  出願日:平成10年12月25日  意匠権者:ナガセケンコー株式会社
■意匠登録第1075476号
 登録日:平成12年4月7日   出願日:平成11年3月26日   意匠権者:ナガセケンコー株式会社

 ご存知の方は一目みて分かったと思いますが、第1075476号(画像右端)はいわゆる「Kボール」の意匠登録です。Kボールは中空のゴム製でありながら硬式球と大きさ・重さが同じで、主に海外の少年野球で公認を受けているボールです5)。ボールの性質そのものが軟式球とは違うのですが、意匠までしっかりと権利化されていることがわかります。
 このKボールの意匠権は、意匠法第4条第2項(新規性喪失の例外)が適用されています。これは意匠出願する前に何らかの形で周知されたことを意味します。この場合、この意匠はすでに公知であるとされ意匠権は認められないのですが、それから6ヶ月以内に出願すれば例外として認められるという規定があり、それが適用されたものです。


第1267384号
(平成18年登録)
(左画像)
■意匠登録第1267384号
  登録日:平成18年2月24日
  出願日:平成15年10月7日
 意匠権者:ナガセケンコー株式会社

 これはボール全体ではなく、部分意匠として緑色部分以外(いわゆる縫い目に相当する部分)の意匠を権利化したものです。あたかも糸で縫ったようなデザインが特徴です。
 この意匠登録は、特許庁から登録拒絶を2回受けています。よって出願してから2年以上かかって、ようやく意匠登録されました。拒絶される場合は、特許庁から拒絶理由が明示されますが、それに対して出願者は意見書を提出できるしくみになっています。その結果、拒絶が撤回され、登録されることもあるわけです。


<サクライ編>
 サクライ貿易はPromarkやFalconなどのブランドで主にグラブ・バットを製造・販売していますが、軟式ボールも製造しています6)。近年になってボールの意匠出願もしており登録されています。

第1268337号
(平成18年登録)
第1252979号
(平成17年登録)
■意匠登録第1268337号
  登録日:平成18年3月3日
  出願日:平成17年8月3日
 意匠権者:株式会社サクライ貿易

■意匠登録第1252979号
  登録日:平成17年8月26日
  出願日:平成17年3月29日
 意匠権者:株式会社サクライ貿易

 どちらも六角形の組み合わせを基調とした意匠です。


<内外ゴム編>
 内外ゴムは、かつて昭和26年に準硬式球として初めて公認されたトップボールを開発したメーカーです。軟式ボールの意匠も出願し登録されています。

第1185307号
(平成15年登録)
第1185306号
(平成15年登録)
■意匠登録第1185307号
  登録日:平成15年8月1日
  出願日:平成14年11月26日
 意匠権者:内外ゴム株式会社

■意匠登録第1185306号
  登録日:平成15年8月1日
  出願日:平成14年11月26日
 意匠権者:内外ゴム株式会社

 これまで見てきた意匠は実物の写真でしたが、このように絵で出願することも可能です。今回は一方向の意匠のみを掲載していますが、実際にはあらゆる角度からの意匠が提出されています。


<大和紡績編>
 大和紡績はダイワマルエス(マルエスボール)の親会社です。平成16年に内外ゴム株式会社(ナイガイボール)と軟式野球ボールの生産に関する技術提携契約を締結し、合弁会社を設立しています7)。そのため、意匠登録第1295495号では共同出願になっています。

第1295495号
(平成19年登録)
第1183511号
(平成15年登録)
■意匠登録第1295495号
  登録日:平成19年2月2日
  出願日:平成18年6月27日
 意匠権者:大和紡績株式会社、内外ゴム株式会社
      ダイワボウプログレス株式会社

■意匠登録第1183511号
  登録日:平成15年7月11日
  出願日:平成14年10月17日
 意匠権者:大和紡績株式会社

 第1295495号の縫い目部分は、内外ゴムの第1185307号が生かされています。技術提携の効果でしょうか。


終わりに
 ここまでで多くの軟式ボールの意匠を見てきました。これはゴム製であるため自由に意匠設定が可能であることを意味しています。しかし公認球が一種類に限定されているため、これらのほとんどは商品化されることなく意匠登録という記録のままで終わってしまうことになります。
 軟式ボールが統一される1938年までは各社がいろいろな意匠のボールを商品化しており、各々が地域の野球連盟の公認を得ていました。ただし当時はメーカーごとにボールの規格もバラバラだったようです。意匠設定が自由であるという軟式ボールの特性を生かすには、大きさ・重さ・反発などの規格だけ全国で統一しておき、ボールの意匠については様々な種類が選択できるようにしておくという形がベストではないでしょうか。

 このボールを使って試合をしてみたい。。そんな意匠のボールはありましたか?

(初版2007.8.5)


【参考資料】
(1)特許電子図書館,特許庁
(2)意匠法
(3)草窓フォーラム【735】,2005/3/3
(4)草野球の歴史,1938年
(5)K-Ballの説明,日本K-Ball少年野球連盟
(6)上達練習球,Promark,サクライ貿易
(7)半期報告書[PDF],大和紡績株式会社


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